近年は低金利時代の突入に伴い、マンションやアパートの空室率が深刻化する中でも、新築建設の勢いは止まりません。しかし、実情は空室率の増加に伴い、不動産投資を行っても、言われているような利回りが得られず失敗に終わるケースも少なくありません。
しかし、同じ不動産投資でも高齢者を対象とした物件投資は話が違ってきます。高齢者の増加率が入居可能物件数を上回っているのが実情で、なかなか老人ホームに入所することができないといった話は珍しいものではありません。
となれば通常の賃貸物件への投資よりも大きな収益が挙げられると期待できるところですが、多くの新規参入もあり運営の難しさを指摘する声も少なくないのも事実です。
そこで今回は老人ホームなどのサービス付き高齢者向け住宅の土地活用のメリット・デメリットを解説していきます。
サービス付き高齢者向け住宅の土地活用
老人介護施設と呼ばれるものは公的施設と民間施設の2つに分類されますが、一般の人が土地活用として運営するのは当然のことながら民間施設となってきます。
その民間施設も下記のように多くの施設に分類されるので、まずは土地活用として運営できる施設はどれかという判断が必要になってきます。
- 介護付有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
- 健康型有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅
- 通所介護(デイサービス)
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 小規模多機能型居宅介護
- 認知症対応型生活介護(グループホーム)
どれも土地活用として運営することは可能ですが、基本的に介護サービスを提供するとなると様々な認定を受ける必要がありますし、多くの資金力が必要となってくるため、個人が行う土地活用としてはおすすめできないものが大半です。
仮に運営するとしてもどこかの介護サービス専門業者と提携したリースバック方式、もしくは土地だけを貸し出す事業用定期借地式となってくるでしょう。
しかし、この中でも個人でも行える土地活用としておすすめできるのがサービス付き高齢者向け住宅です。そこで今回はこのサービス付き高齢者向け住宅に絞って話を進めていくことにします。
どんな施設なのか?
それでは最初にサービス付き高齢者向け住宅とはどんな施設になるのかを解説します。一般的に老人介護施設と聞くと施設に入居して介護や医療のサービスを受けられる老人ホームのような施設を想像するでしょう。
しかし、このサービス付き高齢者向け住宅は介護や医療サービスの提供に重点を置いた施設ではなく、高齢者の居住安定を目的に推進されているサービスで、高齢者向けバリアフリー対応の賃貸住宅という性質を持ちます。
施設運営するためには下記のような物件規定をクリアする必要があり、定期的に医療や介護の有資格者を建物に常駐させて安否確認と生活相談サービスを行わなければなりませんが、基本的には通常の賃貸物件への投資と変わりません。建設時に都道府県への申請登録が必要なだけです。
- 個室は25㎡以上
- 廊下幅78cm
またサービス付き高齢者向け住宅は国土交通相の所管で支援制度も整備されており、高齢者のための居住安定を推進する国が推し進めるプロジェクトのため、運営開始に際し国からの補助金を受けられる点も見逃すことができません。
受けられる補助金は?
サービス付き高齢者向け住宅の開設時には、下記の助成金を受けることができるので、投資費用の負担を大きく軽減することができます。
- 新築の場合 建築工事費の10分の1以内を助成(1戸につき上限100万円)
- 支援施設の合築、併設 1施設につき上限1,000万円
老人介護施設の開設で助成金が受けられるのは、サービス付き高齢者向け住宅だけですからこれは見逃せないポイントとなってきます。また、受けられるのは助成金だけでなく、下記のような税金の優遇措置を受けることもできます。
- 所得税、法人税 5年間割増償却40%(耐用年数35年未満は28%)
- 固定資産税 5年間税額を3分の2軽減
- 不動産取得税 家屋課税標準から1戸あたり1,200万円控除
メリット
サービス付き高齢者向け住宅の運営メリットはなんといっても、先程話した助成金と税金の優遇措置が受けられる点です。これは投資費用を大きく軽減できるので、通常の賃貸物件への投資よりも高いメリットを生むことになります。
しかし、メリットはそれだけではありません。そのほかで注目してもらいたいのは下記の2点です。
- 立地条件に影響しない
- 賃料不減特約の締結ができる
立地条件に影響しない
通常、賃貸物件の場合は入居者人気が高いのは交通の便のいい市街地となってくるため、郊外では入居者が確保できないのが一般的です。しかし、サービス付き高齢者向け住宅は家族が訪れる際に近くにバス停などがあることが好ましいとはされていますが、交通の便の悪さが入居率に影響することはありません。
また通常、建物の建築は土地によって様々な規制を受けるため、特に市街化調整区域に指定された郊外では建築許可が降りません。しかし、サービス付き高齢者向け住宅ならば可能なケースも多く、戸建て住宅しか建築できない第一種低層住居専用地域でも建築できるといったように、建築できる裾野が広いというメリットがあります。
よって、土地活用しようにもできない郊外に土地でも、サービス付き高齢者向け住宅として有効に活用することができます。
賃料不減特約の締結ができる
サービス付き高齢者向け住宅は年金収入となる高齢者が負担なく暮らせるように家賃の増減ができない賃料不減特約の締結ができます。通常、賃貸物件は周りの家賃相場や経年劣化に伴い賃料を安くしなければならないケースに陥ることは珍しくありません。
しかし、この賃料不減特約の締結によって、経営者は将来的な賃料下落リスクを回避して、安定した家賃収入を得ることができます。通常の賃貸物件では必ず訪れる賃料下落を回避できるのはかなり有利な契約と言えるでしょう。
デメリットやリスク
賃貸物件への投資となれば先に紹介したメリットを考慮すれば、通常の賃貸物件よりもサービス付き高齢者向け住宅への投資の方がお得なのは明らかです。しかし、これらメリットがあるにしても投資という側面にはかならずデメリットやリスクが伴います。
サービス付き高齢者向け住宅のデメリットやリスクとして挙げられるのは下記の2点です。
- 家賃設定が通常よりも定額となる
- サブリースの家賃保証が確実ではない
家賃設定が通常よりも定額となる
サービス付き高齢者向け住宅は年金収入しかない高齢者に家賃負担をかけないように賃料設定に縛りがあります。助成金や税金の優遇措置が受けられることを考えれば、これも仕方のない話ですが、その家賃設定は周辺の家賃相場の80%から90%に抑えられます。
新築で入居者が見込める時期からから相場よりも低い家賃収入となるのは、サービス付き高齢者向け住宅における一番のデメリットとなってくるでしょう。
サブリースの家賃保証が確実ではない
また建築会社から提案されてサービス付き高齢者向け住宅の運営を始める場合には、一括借り上げで家賃保証のあるサブリース契約をするケースも少なくありません。家賃保証がある点は心強いと言えますが、開設当初の2ヶ月から6ヶ月くらいは賃料支払いの免責期間とされ賃料収入の発生が遅れることもあります。
また昨今問題となっているように家賃保証は永久的庵ものではなく、入居率によっては減額されたり、契約解除となるケースもできます。よって、家賃保証にあぐらをかいて開設すると入居者もおらずローン返済だけを抱える状況に追い込まれるリスクも出てきます。
高齢者向け住宅は今後も高い需要が見込まれますが、それを狙って多くの新規参入があるので価格競争で賃料を下げる必要が出てくることも考えられます。運営に乗り出す際には建設会社の甘い言葉だけに惑わされないよう、入居率確保のための事前調査が重要になってくるでしょう。
老人介護施設で土地活用する際の流れ
それでは最後に解説までの流れを簡単にお話しておきましょう。
その流れは下記のとおりです。
- 開設予定地周辺の高齢者住宅市場ニーズの調査
- 事業収支シミュレーションのよる事業計画立案
- 業者との建築契約
- 助成金申請
- 工事着工
- 工事竣工
- 運営開始
開設後の入居者確保を確実なものにするためには、高齢者の入居ニーズの有無を調査する必要が出てきます。郊外に利用できる土地があるからやってみようでは、入居者を確保することができないので、事前の市場調査は必須となってくるでしょう。
これには専門家の知識が必要となるので、開設後の運用を個人で行うならコンサル会社への依頼が必要になってきますし、開設後の運用サポートを必要とするならば提携介護事業所と契約するのも一つの手です。
どちらにしても素人が簡単に初めて成功を収められるものではありません。まずは成功させるための知識を持つブレーンを探すことから始めてください。
まとめ
土地活用として運営できる老人介護施設は様々なものがありますが、個人が手を出すことのできるのは今回紹介したサービス付き高齢者向け住宅となってくるでしょう。
通常の賃貸物件よりも多くのメリットがあるにもかかわらず、基本的には通常の賃貸物件と変わらない運営となるため、介護サービス等の専門知識を身につけることなく手が出せるのも大きな魅力です。
しかし、土地活用としては魅力的な案件ではありますが、手を出すのならば専門知識を持つ業者との提携が一番の近道となってくるでしょう。
開設後の運用形態はサブリースや業務提携などいくつかの形が挙げられますが、今回話したデメリットも念頭に置いて、自分に一番あった運営方法を見つけるようにしてください。