土地活用を考えているけれど何の知識もないため、失敗リスクが怖くて手を出せない。土地所有者の中にはこんな悩みを抱えている人は少なくないでしょう。
そんな人におすすめなのが土地信託で、土地運用のプロに土地を預けて運用してもらい、その収益の一部を利益として受け取る土地活用です。
土地信託は土地を預けるだけで、その後一切の事業に関わる必要がありません。土地活用にかかる労力や時間、そして何より気になる初期投資費用を負担する必要がない点は、ほかの土地活用には見られない大きな特徴と言えるでしょう。
そこで今回は一見メリットばかりが目立つ土地信託は、本当におすすめの土地活用なのかを詳しく解説していきます。
土地信託とは
土地信託を請け負う受注会社は信託営業の免許を持つ信託銀行や、信託営業を本業に取り扱う信託会社となりますが、一般的には信託ノウハウが高く、知名度や信頼性の高い大手銀行グループ傘下の信託銀行を利用するケースが多く見られます。
土地信託で得られる利益は信託先の事業展開による運用益です。つまりは毎月の利益配当が約束されたわけではありませんから、運用益が上がらなければその配当を受けることはできません。大手銀行グループ傘下というネームバリューが大きく影響してくるのは当然のことでしょう。
土地信託の流れ
まずは土地信託を始める際の大まかな流れについて解説します。土地信託の契約から契約終了までの流れは下記のとおりです。
- 土地信託契約の締結
- 所有権移転
- 信託先による運用方法の決定
- 信託先による運用
- 運用益に応じた利益配当
- 信託契約終了と土地建物返還
それでは項目ごとにその内容を見ていくことにしましょう。
土地信託契約の締結
土地信託を依頼する信託先と土地信託の契約を結びます。先に話したように信託先には信託銀行と信託会社がありますが、依頼先によって得意とする分野が違っており、その特色や実績が大きく違ってきます。
選ぶ際には1社ではなく、複数社から提案してもらい、その中から先行するようにしましょう。
所有権移転
土地信託契約ではその契約期間中に発生する運用益の配当が確約されます。この権利を信託受益権というのですが、申込者である土地所有者はこの信託受益権を得る代わりに、土地の所有権を信託先に引き渡すことになります。
これは書面上の手続きだけではなく、実際に所有者変更の登記が行われます。一般的な土地信託契約は10年から30年と長期にわたるため、その契約期間中の土地転用はできなくなります。この点は十分に理解しておきましょう。
信託先による運用方法の決定
契約締結後は信託先による運用方法の決定が行われます。個人が土地活用する場合にはどのような活用方法が最善なのか迷うところですが、土地信託ならば根拠に基づいた運用方法が取られるので、これは運用知識のない人にとって一番大きなポイントです。
事業計画に参加することはできませんが、信託先の運用案が気に入らない場合には、その運用の停止を求める権利を持つ点はよく覚えておきましょう。
信託先による運用
運用方法が決まれば、実際にその事業案がスタートされます。事業に必要な初期投資費用、運用にかかる管理維持費用は全て信託先が負担し、これら費用は信託先利益とともに運用益から相殺されます。
運用方法が決まっても、事業が展開されないことには配当が入ってくる時期が先延ばしとなってしまいます。早めの事業スタートを切れるよう、先の運用同意は早めの決断が好ましいでしょう。
運用益に応じた利益配当
運用益から下記のような費用が差し引かれたものが、受け取ることのできる利益配当になります。
- 運用先の借入金
- 各種税金
- 管理委託費
- 信託先の利益報酬
よって、当然のことですがこれらを差し引いた状態で運用益が出ていなければ、利益配当を受け取ることはできません。土地信託は必ずしも安定した利益配当を受けられる土地活用方法ではないことをよく理解しておきましょう。
信託契約終了と土地建物返還
信託契約に基づく契約期間が終了すると土地の所有権が返還されます。そしてここで大きなメリットとなり得るのが、信託期間中に建設された施設が手に入るという点です。これは信託期間中に建てられた施設は信託財産となるためで、土地信託の一番の特徴と言えます。
その施設が返還時に利益を生み続けるものであれば、その後も運用を継続すれば利益を受け続けることができます。しかし、運用という問題があるので、契約終了時にその施設が利益を生み続けている際は、信託先との継続契約という形が好ましいでしょう。
土地信託のメリット
土地信託にはどのようなメリットがあるのか、これは土地信託を検討する人にとって大いに気になるところでしょう。その気になるメリットは下記のとおりです。
- 自己資金が必要ない
- 確実性の高い専門家に託せる
- 固定資産税が安くなる
- 建物付きで戻ってくる
- 信託受益権が売買できる
それではこれらメリットについて見ていくことにしましょう。
自己資金が必要ない
土地活用のリスクの一つとして上げられるのが投資費用です。特に収益物件の建設ともなれば高額借入となることは必死ですから、失敗したらと考えればそのリスクは甚大なものとなってくるでしょう。
しかし、土地信託では運用にかかる費用負担は一切ありません。信託先が全てを引き受けてくれるため、自己資金無しで土地活用が始められるため、このリスクを一切気にする必要はありません。
確実性の高い専門家に託せる
個人の土地活用で一番ネックとなるのが、土地活用に対する知識の低さです。個人では最適な土地活用を見つけることは難しいのが実情でしょう。
しかし、土地信託では土地活用のプロによる運用が行われるため、土地に最適な収益性の高い運用が期待できます。しかも資金は信託先任せですから、個人では負担の大きな商業ビル建設や大規模な商業施設運用も可能となり、個人では不可能なバリエーションの高い土地活用が実現できます。
固定資産税が安くなる
土地信託で賃貸物件を建てると賃家建付地の優遇が受けられ、土地評価額を安くすることができます。その際の評価額は下記の算出法で計算でき、借家権割合が90%から40%、借家権割合は30%の減額優遇が受けられるので、確実に土地評価額が安くなり、固定資産税の減額が行えます。
評価額=自用地の場合の価格×(100%-借地権割合×借家権割合)
固定資産税が減額できれば、自ずと収益も上がるというわけです。
建物付きで戻ってくる
先にも触れましたが契約終了後は建物付きで土地の所有権が返還されます。収益性のあるものならば契約継続するのもありですし、その際には資産価値の上がった土地として売却することもできます。
一見お得に感じますが建物の建築費用は運用益から支払われたもので、信託先が負担したものではありません。ただで収益物件がもらえるような論調で書かれた文章を時折見受けますが、自分が支払ったも同様なのが実情です。
この点は勘違いのないよう、よく把握しておきましょう。
信託受益権が売買できる
土地信託を行えば土地の所有権が信託先に移ります。よってこの間は土地を担保にした借入れはできなくなってしまいます。
この点は一見デメリットのように思えますが、その代わりに得る信託受益権は、それ自体が財産とみなされます。よってこの信託受益権を売買することもできますし、これを担保に金融機関から借入を起こすこともできます。
土地を手放しても、有する権利は土地を所有している時と変わらないというわけです。
土地信託のデメリット
メリットについて理解してもらったところで、次はさらによく理解しておいてもらいたいデメリットについて解説します。土地信託で考えられるデメリットは下記のとおりです。
- 利益確保が保証されていない
- 成否は信託先しだい
- すべての土地が信託可能ではない
それではこれらデメリットについて見ていくことにしましょう。
利益確保が保証されていない
ここまで何度も触れてきましたが、土地信託は固定された利益が保証されているものではありません。運用益がでなければ利益配当を受けることができないからです。
これはメリットの多い土地信託において、最も懸念しなければならないデメリットと言えるでしょう。あまりにも運用益が出ない場合には投資先から追加投資を求められるケースも出てきますし、赤字ともなれば配当時に支払いが求められます。
契約したら人任せという性質を持つ土地信託ですが、こういった甚大なデメリットを孕んでいることは覚悟しておきましょう。
運用成否は信託先しだい
利益を生み出すかどうかは信託先の運用力しだいです。失敗しないためには高いノウハウと高実績を兼ね揃えた信託先の選定が必要不可欠となってきます。
また中には利益配当を高く設定して契約を迫る信託会社もみられますが、中には劣悪な業者も潜んでおり、このような条件交渉で契約させて運用失敗に至るケースも見られます。
成功するには信託先が一番重要なキーとなってきます。信頼できる信託先を選択するのはもちろんのこと、悪質業者から逃れるためにも選考時には信託先だけでなく、弁護士等の専門知識を有する第三者を介するのも1つの手でしょう。
すべての土地が信託可能ではない
土地信託をするにはその土地に収益性があることが条件となってきます、信託先も運営して利益配当を受けることを目的としているので、収益性のない土地と信託契約することはありません。
活用していない土地があり、どうしたら良いか分からないという場合には、ぜひ検討してもらいたい土地活用方法ではありますが、すべての土地が土地信託可能ということにはなりません。
土地信託を断られるということは、収益性のない土地であることの証です。個人で土地活用を考えているが失敗リスクが気になって始められないという人には、判断基準における1つの指標とすることはできるでしょう。
まとめ
土地信託は土地活用の知識がなく、活用したいけれど活用できないという人には、まさにおすすめの土地活用方法と言えます。しかも基本的に運用後は一切事業にかかわる必要はないので、サイドビジネスにもピッタリです。
しかし、その利益は運用益の残りから捻出されるため、期待した利益が得られなかったり、赤字となれば持ち出しの覚悟も必要です。
こういったデメリットを孕む土地活用であるからこそ、運用の成否は信託先にかかっていると言えるでしょう。満足のいく結果を導き出すためにも、業者選びは慎重に行うようにしてください。