耕作放棄地や遊休農地の問題点と再生方法、活用事例

現在、日本全国で深刻化している空家問題と並んで、それよりも以前から問題視されているのが耕作されずに放置されている農地。専門用語では耕作放棄地、もしくは遊休農地といった呼ばれかたをしています。

農業からの人離れは高度成長期から徐々に増え続け、昭和40年に73%だった食料自給率が近年ではその約半分にまで落ち込んでいることからも、その問題の深さを物語っています。

しかも、耕作物の減少は食料自給率だけにとどまらず、我々の生活環境にも大きな影響を与えています。

そこで今回はその問題点を浮き彫りにしながら、その再生方法、そして実際の活用事例を紹介していきます。

耕作放棄地と遊休農地

本来農作物の耕作に使われる農地が耕作に使用されていないものを耕作放棄地、もしくは遊休農地と呼びます。両者はほぼ同じ意味で利用されることが多いのですが、呼び方の違いは耕作放棄地が統計上、遊休農地は農地法において定義されている用語です。

よって、両者は似てはいますが定義されている意味合いの違いから、その集計数値にも大きな差がでています。

耕作放棄地とは

耕作放棄地は農林業センサスと呼ばれる5年毎に行われている土地所有者に対するアンケート調査の統計用語です。

この農林業センサスでは農地の耕作物種類やその売上高と並んで、下記の定義に基づき耕作放棄されている農地の調査も行われます。

「所有されている農地のうち、過去1年以上作付けされておらず、この数年の間に再び作付けする考えのないもの」

しかし、統計対象がアンケートとなるため回答する農家によってこの判断基準が曖昧とされ、ある農家では耕作放棄地として申告したものを、ある農家では耕作放棄地ではないと申告するといったように回答へのバラつきが見られます。

またアンケートが5年毎と最新のものでないため、総合的に見れば決して高い信ぴょう性が高いデータとは言い難い面があります。

遊休農地とは

判断基準となる定義が曖昧になる耕作放棄地に対して、遊休農地は農地法において下記のように明確に定義された用語です。

  • 現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地
  • その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し、著しく劣っていると認められる農地(上記条件を除く)

またこの遊休農地の調査は耕作放棄地の農林業センサスとは違い、各地域の農業委員会が管轄内の帳簿に基づき、実際に農地の状況を確認した上で記録が行われます。しかも、この調査は毎年行われているため、耕作放棄地のデータと比べて高い信ぴょう性を誇り、より正確な実数値とされています。

その点からも以前は農地法に基づく対策は耕作放棄地が基準とされていましたが、現在ではこの遊休地が基準とされ、施策が講じられるようになっています。

耕作放棄地の問題点

以上のように耕作放棄地と遊休地には調査方法の違いから、そのデータ数値に違いがありますが、一般的にはほぼ同義語として使用されています。よって、これ以降は耕作に利用されていない農地を、耕作放棄地に統一して話を進めていくことにします。

そこで早速ですが、この耕作放棄地の問題点について見ていくことにします。国内の食糧自給を支える大事な農地と言えども、その使途は所有者の意思に任されるものです。そのため強要ができるものではありませんが、耕作放棄地が増えれば私たちの生活環境にも大きな影響を及ぼすことになります。

よって、決して他人事とは言えないのが実情で、社会問題として国民全員が真剣に考えなくてはならない問題とも言えるでしょう。それではその問題を下記の2つに分類し、その内容を見ていくことにしましょう。

  • 農作物の減産
  • 環境への影響

農作物の減産

耕作放棄地の増加でまず懸念しなければならないのが農産物の減産による、食料自給率の低下です。政府主導で増産政策が進められていますが、耕作放棄地の増加はこの政策の足を引っ張る原因となってきます。

食料自給率の低下

先にも話しましたが日本の食料自給率の現状は50年前の約半分へ落ち込んでいます。現状ではその不足を外国からの輸入で賄うことができていますが、将来的な外国の政局不安等の問題により、いつ何時、十分な輸入が確保できない状況となるかは予測できません。

そのためにも食料自給率の低下を増進させている、耕作放棄地の増加は見逃すことのできない深刻な問題となってきます。

農地の集積・集約化への影響

今後の生産農作物の減少を抑えるために必要なのが、高齢者リタイア後の農地への対応です。リタイア後の農地の維持保全を図るため、農業の担い手にその農地を集積・集約化していく政策が推し進められています。

この政策には下記のような難しい問題がありますが、この問題が解決されても耕作放棄地が多ければ、この政策を阻む大きな原因となってしまいます。

  • 散らばっている農地の集約
  • 農地の所有権の調整
  • それにかかる金銭的問題

耕作放棄地の状態にもよりますが放棄されてからの期間が長くなれば、耕作農地として復元するのに大きな労力と費用が必要となり集積・集約ができても直ぐに優良農地として利用することができません。

環境への影響

また我々が生活へも耕作放棄地の増加は少なからず影響を及ぼすことになります。その影響とは下記のようなもので、意外なところで我々の生活に関わっていることが分かってもらえるでしょう。

  • 雑草、害虫の増加
  • 鳥獣被害
  • ゴミの不法投棄
  • 洪水被害の抑制

それではこれら影響について見ていくことにしましょう。

雑草、害虫の増加

農地に限らず管理の行き届かない放ったらかしにされた土地は、雑草が生い茂り、そこに多くの害虫が増加します。農作物を植えない農地に農薬を使うこともないため、耕作地であった農地はその被害は更な甚大で、雑草や害虫の溜まり場となってしまいます。

その被害は放っておけば周辺にも広がり、歯止めがきかないため、その被害は拡散していきます。その雑草の種子や害虫が周辺に飛散し、歯止めがきかない状況となるでしょう。

鳥獣被害

山間部の農地には山間部に住む鳥獣と、人の住む宅地との緩衛地帯としての役割を担っています。農地の作物被害は避けられませんが、それによって集落に餌を求めることはなく、集落への鳥獣の侵入を防ぐ効果を発揮しているからです。

しかし、耕作放棄地が多くなればその進行を防ぐことができなくなり、その集落は山間部に住む鳥獣被害を受けることになります。近年、熊や猪が集落に現れるといった全国的なニュースが多くなったのも、この耕作放棄地の増加が原因の1つと考えられるでしょう。

ゴミの不法投棄

人の存在がない空き地はゴミの不法時の対象とされます。特に田舎の耕作放棄地ともなれば、不法投棄も人の目を気にせず行えるので、一層不法投棄されることになるでしょう。

ゴミの不法投棄は美観を損なうことにもなり、周辺の生活環境を悪化させる原因の1つにもなってきます。

洪水被害の抑制

農地が利用する水は河川から引っ張っることになります。これだけでも河川水位を引き下げる効果を発揮しますが、保水能力の高い農地は洪水防止効果も発揮します。

洪水被害を抑制する圧倒的な効果を持つわけではありませんが、あぜ道によって囲まれた農地は一定量まで貯水することができ、地下へ浸水することで河川への流出を防止するというわけです。

事実、この効果は認められており、農地と市街部とを流れる川では必要とされる堤防の高さが違ってきます。しかし、耕作放棄地は従来の保水能力が損なわれ、同じ洪水被害の抑制効果を発揮することはできません。

農地を流れることを前提に作られた堤防近くでは、洪水被害の確率が上がってしまうというわけです。

耕作放棄地となる原因とその推移

それでは次は耕作放棄地が増加している原因について見ていくことにします。一番の原因は農業従事者となりうる人材が不足していることでしょうが、原因はそれだけではありません。

農地確保を目的とした国の政策も大きく関係しています。それではいくつか原因を挙げながらその実情を見ていくことにしましょう。

新規参入を厳しくしている農地法

近年はハッピーリタイアした夫婦が田舎に引っ越し、農地工作を行いながら生活していくなんて話をよく耳にします。しかし、これは自ら農業を営んでいるわけではなく、農地を借りて農業に従事しているだけの状態です。

農業参入するには農地法によって制限が定められています。農業を始めるから農地を購入しようとなんて簡単にはことは進みません。農地を購入するには農業委員会の許可を得る必要があり、その許可が受けられるのは農家、もしくは農業従事者だけだからです。

よって、せっかく農業を始めたいという人がいても農地を購入するには、まずは農業経験を積んで農業従事者と認められる必要が出てきます。

また農業は農業機械等の初期投資費用が高額になる上、収穫まで収入が途絶えてしまうというデメリットもあります。つまり、高額な初期投資費用と収穫までの自己持ち出しが多いため、誰でも簡単に始められる職業ではないというわけです。

このようなハードル事情を考慮すれば、新規参入者が少ないのも頷ける話ですよね。

土地持ち非農家者の増加

農作物の生産が減少している問題の1つが後継者がなく、高齢化による離反率が高くなっている点です。

しかも、その農地が子供へと相続されても遠隔地に住み、すでに職に就いているため、相続された土地が耕作放棄地とならざるを得ないという事情があります。近隣の農家に土地を売却できれば問題はありませんが、高齢化による離農率が高い現在、思ったようにことが進まないのも実情です。

持ち続けるしか方法がなく、耕作放棄地となってしまうという流れです。

また農地を宅地とすることはできませんが、市街化が進む地域であれば、その可能性がないではありません。市街化が広がり、農地を宅地に変更できる可能性も考えられます。そのような地域では農地よりも高い売却益が見込めるため、売り惜しみしているケースも見られます。

耕作放棄地の面積推移

耕作放棄地が増加していると言われても、いまいちピンとこない人も少なくないでしょう。そこでここでは農林業センサスの統計結果で実際にその数値を確認していくことにします。

昭和60年から最新の平成27年までの統計データは下記のとおりです。

年度 耕作放棄地面積
昭和60年 13.5
平成2年 21.7
平成7年 24.4
平成12年 34.3
平成17年 38.6
平成22年 39.6
平成27年 42.3

(単位:万ha)

確実に増加しているのが見て取れます。また農地面積はこれとは逆で年々減少傾向にあり、昭和36年には608.9万haだったものが平成27年には449.6万haまで減少しています。

農地面積は減っているのに、耕作放棄地は増加しているという反比例の関係性というわけです。また耕作放棄地の中でも長期間耕作が行われておらず、農地として作物の栽培が不可能と判断されている荒廃農地の割合を見るとさらに事態の深刻さが伺えます。

年度 荒廃農地
平成24年 27.2
平成25年 27.3
平成26年 27.6
平成27年 28.4
平成28年 28.1

(単位:万ha)
※農林水産省農村振興局調べ

荒廃農地の割合はそれほどの伸びを見せていません。しかし、平成27年の耕作放棄地が42.3万haですから、その年の荒廃農地は67.1%と半数を上回る点は見逃せません。また伸び率が詐称ではありますが伸びていることからも、年々、耕作放棄地が確実に増加していることを物語っています。

耕作放棄地が増加するのと共に、簡単に農地再開できない耕作放棄地が増加しているのも、大きな懸念材料となってくるでしょう。

耕作放棄地の再生・活用方法

耕作放棄地が年々、増加している現状を見据え、国をはじめ自治体による行政の耕作放棄地対策が進められています。ここでは国や自治体がどのようん再生・活用対策を進めているの
かを見ていくことにしましょう。

国の耕作放棄地政策

国が取り仕切る耕作放棄地の主な政策は下記の3つです。

  • 農地集積バンク
  • 固定資産税の課税強化
  • 耕作放棄地再生利用緊急対策交付金

それではこれら政策内容を見ていきましょう。

農地集積バンク

これは先にも解説した農業従事者に農地を集積・集約し、農地利用を進める政策の一環です。全国の都道府県に設置された農地中間管理機構(農地バンク)が受け皿となり、下記のような農地要望に対応して、農地賃借受け渡しを行います。

  • リタイアするので農地を貸したいとき
  • 利用権を交換して、分散した農地をまとめたいとき
  • 新規就農するので農地を借りたいとき

貸したい、借りたいという両者のニーズを取りまとめることで、農地利用を進めることを目的としています。公的機関が仲介役となるため、個人間で発生する賃料収入や賃貸期間などの問題が発生しないという安心感があります。

固定資産税の課税強化

農地の固定資産税は農地の場所によって種別が違ってきますが、市街化調整区域・生産緑地の一般農地で1㎡あたり64.87円です。

これは全国平均の数値ですが、仮に300坪の農地に換算すれば、その金額は1,000円未満となることからも、農地の固定資産税がいかに低いかがお分かりいただけるでしょう。

この固定資産税の低さが相続等による土地持ち非農家を増加させている原因の1つと考えられます。そこで政府は平成29年度を皮切りに、耕作放棄地の固定資産税を約1.8倍に増税しました。

増税により耕作放棄地の減少を図るという政策です。対象となるのは先ほど紹介した農地バンクへの貸出を勧告された耕作放棄地で、勧告時点から増税開始となります。

耕作放棄地再生利用緊急対策交付金

耕作放棄地を再生するといっても、それには安くはない費用が発生します。耕作放棄地のままにしているのも、これが1つの原因となっているでしょう。

そこで農地再開のためにかかる下記のような費用を支援する交付金として、用意されたのが耕作放棄地再生利用緊急対策交付金です。

  • 草刈り
  • ゴミの除去
  • 深耕
  • 整地
  • 土壌改良
  • 用排水整備
  • 農道整備
  • 区画整理
  • 鳥獣被害防止施設
  • 農作物の加工施設
  • 直売所

農地再生だけでなく、それに必要となる施設にも利用できるので、非常に利用範囲が広い交付金と言えます。交付額は下記のとおりで、再生作業の翌年度も交付金の助成を受けることができるのは特記すべき点です。

  • 最大5万円(10aあたり)

※重機利用時は費用の半額(沖縄県のみ3分の2)

耕作放棄地の再生を支援する自治体も

また国による制作の他にも、自治体独自の再生支援策が展開されています。基本的には交付金や補助金の支給支援となりますが、その金額や支給条件は自治体によって違い、支援制度がない自治体も見られます。まずはお住まいの自治体にどのような再生支援策があるのかを確認するようにしましょう。

下記は実際に山梨県で行われている対策です。どのような支援策が行われているのかを簡単に紹介しておきましょう。

  • 企業的農業経営推進支援モデル事業
  • 機構借受農地整備事業
  • 耕作放棄地等再生整備支援事業

企業的農業経営推進支援モデル事業は減少する農業従事者を農業生産法人や企業参入をバックアップすることで補う事業、機構借受農地整備事業は農地バンクに登録する際に必要となる条件整備の支援、そして耕作放棄地等再生整備支援事業が本筋の耕作放棄地となります。

耕作放棄地等再生整備支援事業の利用条件は下記のとおりです。

採択要件
  1. 中山間直接払交付金や多面的機能支払交付金などによる共同活動を行っている地域であること、また、農業経営基盤強化促進法に基づく市町村基本構想に耕作放棄地の発生防止解消を図る区域としてゾーニングされていること
  2. 整備する対象地域に耕作放棄地が1ha以上含まれていること
  3. 耕作放棄地利用計画を作成し、その達成が見込まれること、また、事業完了後3年間利用計画の状況を報告すること
補助率

事業費の50%以内

補助対象
  1. ほ場、農道などの生産基盤整備
  2. 市民農園施設とそれに属する施設の整備・換地・交換分合など

※山梨県HPより参照

耕作放棄地の活用事例

それでは最後に実際に耕作放棄地を再生させた活用事例をいくつか紹介していきます。基本的には耕作放棄地の所有者ではなく、自治体関係者による主体取り組みとなっており、国や自治体の支援金や補助金を利用した活用となっています。

大規模農業従事者による耕作放棄地の再生利用

これは千葉県柏市の案件で当初は市協議会が大規模農業者等へ耕作放棄地の利用推進を図ったことが始まりです。その取り組みが広がり、結果として4つの経営隊による8.5haの耕作放棄地の再生に成功しました。

取り組み主体
  • 柏市農業再生評議会
  • 市内大規模農場者
  • 農業法人
利用制度
  • 耕作放棄地再生利用緊急対策交付金(国)
  • 耕作放棄地再生推進事業(自治体・県)

耕作放棄地利用による特産品の生産拡大

これは神奈川県相模原市の案件で、傾斜地や鳥獣被害の多い耕作放棄地を中心に0.6hの耕作放棄地の再生に成功し、ここで特産品である「津久井在来大豆」の利用権を設定しました。その後はJAによるコンバイン導入が行われ、生産者への貸出システムが構築され、生産性の拡大にも成功しています。

取り組み主体
  • 相模原市耕作放棄地雷作評議会
  • 市内生産農家
  • 津久井郡農業共同組合
利用制度
  • 耕作放棄地再生利用緊急対策交付金(国)
  • 農業者戸別所得補償制度
  • 相模原市耕作放棄地対策協議会事業費補助金(自治体・県)

新規就農者による耕作放棄地の再生

これは静岡県浜松市の案件で、自治体関連者を介さず新規就農者が主体となっている希少な事例です。取り組み主体は愛ファームという新規就農者が経営する企業で、露地野菜を主体に農業経営に取り組んでいます。

平成24年には4haの耕作放棄地の再生に成功し、平成27年までに耕作放棄地を含めて50haの露地野菜の大規模経営を目標としています。またこの案件は全く補助金や支援金を利用しておらず、耕作放棄地の再生費用をすべて自費で行っているのも特記すべき点です。

取り組み主体

アイファーム

利用制度

利用なし

まとめ

耕作放棄地の増加は食料自給率の低下だけでなく、我々の生活環境への影響も懸念される深刻な問題です。それを行政もしっかりと理解しており、解消するために国と自治体が連携して再生政策を進めています。

しかし、その政策がしっかりと実を結んでいるかといえば、疑問符が残るのが実情で、満足な結果が得られているとは言えません。これは所有者である土地持ち非農家の営利問題が関係するなど、簡単に解消できる問題ではないことも影響しているでしょう。

ですがこれは国民全員が関心を抱き、問題解決を進めていくべき重要な課題とも言えます。行政と耕作放棄地の所有者双方がウィンウィンの関係となるべく、これからのさらなる行政支援に期待したいところですね。

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