不動産投資といえば現物に投資するスタイルが一般的ですが、近年は金融商品として証券化された不動産へ投資する新しい投資スタイルが生まれています。
不動産所有ではなく、証券化された不動産に投資して、その不動産の運用益や売却益を得るといったものです。
そこで今回は土地や物件を不動産証券化する仕組みについて解説していきながら、そのメリット・デメリットを見ていくことにします。
不動産の証券化とは
不動産を所有して、その運用益や売却益をオーナーが全て受け取るのが従来の不動産投資となりますが、不動産は高額な投資財となるため流動性が低く、どうしても購入者が限定されてしまいます。
近年はマイナス金利の影響もあって、多くのサラリーマン投資家がマンションやアパートへの不動産投資を行いましたが、それでも高額投資となることに違いはありません。
その点、証券化された不動産への投資ならば、不動産の所有権を小口化することができるため、購入者を広く募ることができ、流動性の低い不動産を流動性の高い投資財に生まれ変わらすことができるメリットが生まれます。
証券化の仕組み
それではその不動産の証券化の仕組みについて解説します。不動産の証券化とは、いわば1つの資金調達手段です。
通常、不動産を資金化するには購入者を募って、そこへ売却して資金化します。よって、購入者が決まるまでは資金化することができず、購入希望者が募れなければ資金化することはできません。
不動産が流動性の低い投資材だと言われるのも、資金化したくてもすぐに買い手が見つかるわけではないからです。
その点、不動産の証券化は違います。不動産の現保有者(オリジネーター)は不動産の管理運用を行う事業体(SPV)に譲渡、売却し、その代金を受け取ります。
そして事業体(SPV)はその不動産を証券化し、その信用力のもとに投資家を募り、資金を集め不動産の運用を進めていきます。投資家はその不動産の運用益や売却益を利子や配当といった形で受け取ることで利益を得るといった具合です。
この不動産の証券化が生まれた背景には、企業の資金調達方法の変化が大きく影響しています。以前は銀行融資を受ける際に、その担保となる不動産が必要とされたため、企業はこぞって不動産の購入に努めました。
しかし、不動産購入には不動産管理という業務が新たに発生する上、不動産価値も変化を伴うため、不動産維持はリスクを背負うことにもなります。不動産維持で本業に支障が出てしまっては本末転倒です。
そこで資金調達手段として新たに事業体(SPV)を設立し、そこへ所有不動産を譲渡することで不動産維持から解き放たれ、同時に売却益による資金化という方法が生み出されました。
それでは解説の中に登場した不動産証券化で重要なる、下記ワードについて解説しておきましょう。
- 現保有者(オリジネーター)
- 事業体(SPV)
- 投資家(金融・資本市場)
不動産証券化では基本中の基本とも言えるワードですので、よく覚えておいてください。
現保有者(オリジネーター)
不動産の保有者であり、その不動産が生み出す運用益や売却益に応じた裏付けに伴い、事業体(SPV)からそれに見合った売却益を受け取ります。
事業体(SPV)
事業体(SPV)は現保有者(オリジネーター)から不動産を譲る受ける事業体を指し、授受後の不動産の管理運用を行います。
事業体(SPV)となりうる事業体には下記のものが挙げられますが、一般的には売却する企業が資産流動化法上の特定目的会社を設立し、不動産を譲渡するケースが多く見られます。
- 資産流動化法上の特定目的会社
- 株式会社
- 合同会社
- 信託
そして事業体(SPV)は授受された不動産を証券化することで流動性の高い金融商品に変え、投資家による投資を募って、資金調達を行っています。
投資家(金融・資本市場)
証券化された不動産は株式市場で売買できるようになるため、そこを介して多くの投資家を募ることができるようになります。しかも、証券化されたことにより、少額投資が可能となり、従来は投資家が限定される不動産投資に広い門を開くことに成功しています。
また、不動産投資に必要不可欠な物件管理を行う必要のない点と、証券化されたことにより日本だけでなく、海外からも投資ができるのも大きなメリットと言えるでしょう。
証券化のメリット
それでは不動産の証券化についての概要を理解してもらったところで、そのメリットについて見ていくことにします。
不動産の証券化メリットは下記のとおりです。
- 希望に即した資金調達ができる
- 経営の健全化が図れる
- オリジネーターとSPVの倒産隔離
- 海外設立では設立国の法制度が利用できる
それではこれらメリットについて解説していきましょう。
希望に即した資金調達ができる
企業の主な資金調達手段といえば銀行融資となりますが、銀行融資は融資実行までに多くの時間と労力が必要となる上、借入金には利息が発生します。また不動産を売却するにしても思い通りの売却益が得られるわけではありませんし、売却先が決まるまでは資金化することはできません。
しかし、不動産の証券化ならば高額な資金調達でも証券を小口化することで多くの投資家を募ることで獲得できますし、資金化までの時間も大きく短縮することができます。そしてなにより利息が発生しない、低コストな資金調達手段である点は大きなメリットと言えるでしょう。
経営の健全化が図れる
保有している不動産を譲渡することで、企業はその資産を貸借対照表から切り落とすことができ、会計上では売却と同じ効果が得られます。よって、不動産の証券化に伴い、資産と負債の削減効果を得ることができます。
近年は少ない自己資本で高い利益を生む企業が評価される傾向にあります。しかも不動産や株式は価格が変動することからリスクのある資産とされています。そこで資産と負債の削減が企業価値を高め、株主からも高評価を得ることになるというわけです。
従来、不動産の証券化は企業の資金調達手段として生み出されたものですが、現在はこの企業の健全化を目的とした証券化を行う企業も少なくありません。この点からもその効果のほどが伺えますね。
オリジネーターとSPVの倒産隔離
オリジネーターはSPVに不動産を譲渡することで、仮にSPVが投資家への資金返済ができなくなり倒産したとしても、その支払いに対して責任を負わなくて済む責任財産の限定効果が生じます。これを専門用語で倒産隔離と呼びます。
またこの点は投資家にとっても同様で、オリジネーター側が倒産しても投資物件が変わらず運用益を生み出していれば利益確保することができます。
しかし、この倒産隔離を法的に認めてもらうためには、書類上の形式的なものだけでなく、下記のように厳正な手続きが完了していることが求められます。
- 両者間の譲渡意思の疎通が合致している
- オリジネーター側で会計上の処理が行われている
この点がお座なりな場合には、倒産隔離のメリットは生まれないので注意が必要です。
海外設立では設立国の法制度が利用できる
SPVを日本よりも税率や規制が緩和された海外国に設立することで、下記のようなメリットが受けられます。
- SPV設立コストを抑えられる
- 投資家は外国税額控除枠を広げることができる
- 日本での課税を回避できる
設立時、運営後ともに多岐に渡ってコスト削減できるため、近年は海外にSPVを設立する企業が増加傾向にあります。
証券化のデメリット
それでは次は問題のデメリットです。不動産の証券化で発生するデメリットは、その複雑な仕組みゆえに発生する高コストでしょう。
仕組みが複雑で高コスト
通常の銀行融資であれば借入企業と銀行の2者間との関係ですみますが、証券化の場合にはより多くの業者が介入することになります。
先に解説した仕組みでは現保有者(オリジネーター)、事業体(SPV)、投資家(金融・資本市場)の3者しか登場しませんでしたが、実際のところはこれら3者以外のも下記のような業者の介入が必要になります。
- 信託銀行 信託受益権を発行
- サービサー会社 賃料の回収、管理業務
- アレンジャー会社(証券会社等) 煩雑な仕事の取りまとめ
- 建築士
- 不動産鑑定士
- 環境調査会社
- 弁護士
- 税理士
信託銀行は信託受益権を発行、サービサー会社は賃料の回収、管理業務、アレンジャー会社(証券会社等)は煩雑な仕事の取りまとめ、残りが資産価値の調査や登記変更等の手続きといったように、通常の銀行融資と比べると多くの業者の介入が必要不可欠となるため、その分、証券化にかかるコストが高くなるケースは少なくありません。
もちろんどれくらいの規模のものをどんな仕組みで証券化するのかによって、必要となる業者の数は違ってきますが、大規模な不動産ほど高コストとなる傾向にあります。
よって、不動産の証券化が必ずしも最適な資金調達手段とは言えないケースも出てきます。この点はじっくりと検証する必要があるでしょう。
不動産を証券化するには
ここまで不動産の証券化について解説してきましたが、不動産を証券化するには最低限クリアしなければならない条件があります。
それは証券化する不動産がキャッシュフローが見込める資産価値を兼ね揃えているという点です。証券化後は投資家による投資が見込める不動産であることが求められます。投資家にとって利益を生み出す魅力的なものでなければ、証券の買い手は出てきません。
なんの活用方法も見当たらない不動産を証券化しても、買い手は出てきませんから証券化することはできないというわけです。
まとめ
不動産の証券化は企業にとって最適な資金調達手段となり、経営状況の改善にも繋がるので企業価値を高めるという副産物も生み出します。
しかし、一見簡単に見える証券化も複雑となるケースがあり、必ずしもメリットばかりの資金調達とはならないケースも出てくるでしょう。しかも、証券化できる不動産も限られてくるので、いらない不動産を処分して、資金調達できるものでもありません。
投資家にとっては安易な不動産投資ができる仕組みではありますが、証券化する側の不動産所有者にとっては決断を有する資金調達手段となってきます。検討するに値する資金調達手段ではありますが、検討時には専門家等へ相談する必要がある資金調達手段ですね。